秋の彼岸のころ、人里を鮮烈な色に染めるヒガンバナ。曼珠沙華とも呼ばれるこの花は、はるか縄文晩期に中国の長江下流域から水田稲作農耕文化を構成する要素のひとつとして日本列島へ渡ってきた後、雑草となり2500年を謎に包まれ生きてきた。著者はその特徴を貴重な「指標」として再発見し、愛知県豊川流域において自生地調査をおこない、その成果をもとに環東シナ海地域のヒガンバナ探訪を長年続けてきた。本書はこの雑草に魅せられた練達の地理学徒によるヒガンバナ世界への招待である。
有薗 正一郎(ありぞの・しょういちろう)
1948年 鹿児島市生まれ
1976年 立命館大学大学院文学研究科博士課程を単位修得により退学
1989年 文学博士(立命館大学)
現職 愛知大学文学部教授
著書
『近世農書の地理学的研究』(古今書院)、『在来農耕の地域研究』(古今書院)、『ヒガンバナの履歴書』(あるむ)、『農耕技術の歴史地理』(古今書院)、『喰いもの恨み節』(あるむ)、『薩摩藩領の農民に生活はなかったか』(あるむ)、『地産地消の歴史地理』(古今書院)
翻刻・現代語訳
『江見農書』(あるむ)
研究分野
地理学。農書類が記述する近世の農耕技術を通して地域の性格を明らかにする研究を半世紀近く続けてきた。
ヒガンバナ研究は日本の農耕の基層を模索するためにおこなっているが、道楽でもある。毎年9月後半はヒガンバナを求めて日本列島の内外を歩いている。
目次
序 章 ヒガンバナは不思議な花
第1章 ヒガンバナの履歴書
第1節 ヒガンバナの1年
第2節 ヒガンバナは食用植物だった
第3節 ヒガンバナはどこに多く生えているか
第4節 ヒガンバナの不思議を解いてきた学問分野
第5節 ヒガンバナが生える水田の畔にはほかの雑草が生えにくい
第6節 ヒガンバナはなぜ人里だけに自生しているのか
第7節 童話と歌謡曲はヒガンバナをどうイメージしているか
第8節 ヒガンバナの不思議への7つの答
第9節 ヒガンバナに関する史料
◆話の小箱1 ヒガンバナとの出会い
第2章 ヒガンバナが日本に来た時期
第1節 作業仮説の設定
第2節 豊川流域におけるヒガンバナの自生面積の計測法と自生地の分布
第3節 集落成立期の推定法と集落の分布
第4節 ヒガンバナの自生面積と集落成立期との関わり
第5節 豊川の中下流域におけるヒガンバナの自生面積と集落成立期との関わり
第6節 豊川中流域の2集落におけるヒガンバナの自生地
第7節 ヒガンバナが日本に来た時期
◆話の小箱2 あなたもヒガンバナの自生面積を測ってみませんか
第3章 ヒガンバナが日本に来た道
第1節 稲作農耕が日本に来た道
第2節 ヒガンバナが日本に来た道
◆話の小箱3 中国長江下流域の人々もヒガンバナを好ましく ない名で呼んでいる
第4章 『和泉国日根野村絵図』域のヒガンバナの自生地分布
第1節 『和泉国日根野村絵図』域でヒガンバナの自生面積を計測した理由
第2節 目的と方法
第3節 『和泉国日根野村絵図』域のヒガンバナの自生地分布
第4節 ヒガンバナの自生地分布と開発過程との関わり
第5節 まとめ
◆話の小箱4 ヒガンバナ調査時の不思議な体験
第5章 豊橋におけるタンポポ・ヒガンバナ・セイタカアワダチソウの自生地分布
および面積と土地利用との関わり
第1節 目的と方法
第2節 自生面積の計測手順と調査結果の検討
第3節 3種類の草本の自生地分布と自生面積
第4節 3種類の草本の自生地と土地利用との関わり
第5節 おわりに
◆話の小箱5 佐々木高明先生のつぶやき